本稿は、ポタラ宮よりあらたに発見された『倶舎頌』偈頌Ⅲ, 65とⅥ, 34の異読に焦点をあて、各異本間の対応関係とその思想的背景を検討する。Ⅲ, 65では須弥山頂上の広さを巡り、「一辺八万」説(Pradhan系)と「一辺二万」説(ポタラ宮系)に分かれ、前者が原型、後者が『順正理論』系に由来することを示す。Ⅵ, 34では家家聖者の生涯回数に関して「二・三生涯」説と「三・二生涯」説が確認され、それぞれ『心論』系と『婆沙論』系の思想的背景を反映する。両偈頌の分析から、『ポタラ宮倶舎頌』はカシミール毘婆沙師の立場を反映した改変本であることが明らかとなった。