本論文の目的は子ども,中でも未就学児童の子を持つ高等教育を受けた妻の労働供給について,どのようなジェンダー行動規範が存在するのか,その存在はそのような妻の労働供給に影響を及ぼすのか,そしてジェンダー行動規範に否定的な態度を持つ妻であっても同調志向が強ければ労働供給を抑制するのかを明らかにすることである。2023年12月にインターネット上で独自に行ったアンケート調査の回答を用いた実証分析の結果から明らかになったのは以下の点である。第1に,妻が就業するかどうかを決定する際には,「子を持つ妻は家事・育児を担うべきである」というジェンダー行動規範が存在し,それを支持する程度が高い妻,特に学士号を持たない高卒以上の最終学歴を持つ妻は就業する確率が低くなることが明らかにされた。ただし,妻の同調志向の程度を考慮した場合にはこのジェンダー行動規範を支持する程度は就業確率には影響を及ぼさない。第2に,学士号を持つ妻に対しては,「未就学児童を持つ妻は短時間だけ就業すべきである」というジェンダー行動規範が存在することが明らかにされた。このことは安藤 (2022) の実証分析の結果と整合的である。第3に,妻が学士号を持つ場合,短時間就業規範を支持する程度が低くても同調志向の高い妻は,同調志向が低くても短時間就業規範を支持する程度が高い妻と同程度に労働供給を抑制すること,しかし,妻が学士号を持たない場合,この短時間就業規範を支持する程度が高かろうが,妻の同調志向が高かろうがその労働供給には影響を及ぼさないことが明らかにされた。